大判例

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仙台地方裁判所 昭和43年(行ウ)6号 判決

原告

大黒幹雄

右訴訟代理人弁護士

斉藤忠昭

外一名

被告

東北地方建設局長

井上孝

右指定代理人

河村幸登

外七名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一、原告

被告が原告に対し昭和三八年一一月三〇日付でなした懲戒免職処分を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする

との判決。

二、被告

主文同旨の判決。〈後略〉

理由

一原告は昭和三八年一一月当時建設事務官として東北地建四十四田ダム工事事務所に勤務していたものであるが、被告が同年一一月三〇日、「原告が昭和三八年五月中旬以降正当な理由なく勤務日数の約半数を欠勤した。」として、国家公務員法八二条各号に基き、原告に対し懲戒免職の処分をしたこと、原告が右処分について人事院に対し、被告を処分者として不利益処分審査請求を為し、右請求は昭和三九年第二号事案として受理されたが、人事院は昭和四三年二月二三日本件処分を承認する旨の判定を為し、右判定が同年三月一七日原告に通知されたことはいずれも当事者間に争いがない。

二以下被告の原告に対する本件懲戒免職処分の適法性について検討する。

1  本件処分に至る経緯

(一)  本件処分の背景

〈証拠〉によれば次の事実が認められる。

(1) 昭和三三年から昭和三四年一月にかけて東北地本の行つた勤評反対闘争は、同年一月二六日から二九日に至る連日の交渉の結果、当局が勤評の一時中止を受け入れたことにより解決し、その際組合活動自由の問題に関し、地本と地建との間で次のような合意が成立した。

(イ) 年次休暇の取扱いについて理由のいかんを問わないこと、休暇の基準は業務の繁閑を原則とし、以前の通牒については改めて指示することなく一切を事務所長の判断にまかせ運用の妙を計りたい。

(ロ) 組合活動と年次休暇について

他地建の実状を調べこれらとバランスをとつて運用して行きたい、今回の中央委員会(二月五日)の出席については出席する者の所属長に局から連絡する。

(ハ) 庁舎の使用許可について

所長の許可を得ること、統一行動日の場合でも局としては特に指示しない、但し本省から通達があればそのまま流すことはある。

(ニ) オルグ活動について

事務所長より事務連絡の形の報告はあり得る、但し局から特に要請しない。

(ホ) ビラ張りについて

指示個処は指定して増加したい(但し、局については各階にもうける。)、特別の場合は当局と話し合つて決める。

(ヘ) 組合の活動に対する指示について

組合活動を阻害するような指示は出さない、但し本省からの通達は流す。局からは行政上必要な一般的事項の指示はあり得る。

(ト) 賃金カットについて

いかなる場合でもやらないということはできないが、運用について巾を持たしてやりたい、誤つたカットについては是正する。

以上のような確認事項について、東北地本ではこれを、「一月憲法」と称し、組合活動をなすうえでの準則としていた。

その後も東北地本と東北地建の間では、

(イ) 昭和三四年六月八日全国税労働組合の不当処分抗議集会に参加した本局支部長木原澄雄が警察に逮捕され起訴されたが結局無罪となつた事件、

(ロ) 同年五月から翌三五年三月にかけて行われた共済組合の掛金率およびその運営の民主化をめぐる交渉、

(ハ) 昭和二四年以来の臨時職員制度撤廃、全員定員化要求の闘争と、その最終段階の昭和三六年春闘において地本の責任者三九名が処分(うち六名は懲戒免職)された事件、

(ニ) 建設省の直営事業の請負化とこれに伴う地建の労務者に対する解雇予告に反対して闘われた昭和三七年春闘、

などの問題をめぐつて労使の主張が鋭く対立し、地本および各支部の役員はそれぞれの闘争の指導、当局との交渉などの組合活動に従事した。

(2) ところで当時の人事院規則一五―三(職員団体の業務にもつぱら従事するたの職員の休暇)によれば、職員は、公務に支障のない限り、人事院に登録された団体の代表者または役員として専らその業務に従事するため、所属の長に申出、その承認を得て専従休暇を得ることができたが、その与えられる休暇の期間は一日単位で一年以下の範囲内とし(ただし休暇の期間が満了したときは所属長は更に休暇を与えることができた。)、また右休暇を与えられた職員は、その休暇期間中は、本来の職務に従事することはできず、完全無給とされるものであつた。しかしながら建設省の職員団体である全建労においては右規則による専従休暇の手続をとることなく、その役員が有給でもつぱら組合業務に従事するという取扱いが慣行化し、東北地建においても昭和三四年一月に、いわゆる「一月憲法」が成立して以来、毎年人事院に職員団体として登録していた東北地本に数名の有給専従者を置くことを暗黙に承認してきた。かかる取扱は、一般に、「やみ専従」あるいは、「もぐり専従」などといわれ、数年間にわたり特に問題とされることなく運用されていたものであつた。

しかるに、昭和三八年八月一五日建設大臣河野一郎は、「違法な労働慣行是正のため」と題して建設省職員に対する訓示を行い、右訓示は建設省の広報紙「職員」に掲載されて各職員に配布されたが、その内容は、「職員が職員団体を組織し、職員の勤務条件の向上のため適法な手続きに従つて平静かつ秩序ある組合活動をすることは好ましく歓迎するところであるが、職員団体といえども法令の範囲を逸脱し、違法な慣行をいたずらに固執することが許されないのは当然であり、職員団体の業務に専ら従事する場合においては所定の手続を経たうえで行わなければならない。」というものであつた。右大臣訓示を受けて当時の東北地建局長金子収事は、人事院規則に違反する有給専従の取扱をやめることとし、同年八月一五日付で地本執行委員長秋田泰治宛に、八月三一日限り従前の有給専従の取扱をやめる旨およびその後は人事院規則一五―三に基づく手続をとるように通告するとともに、八月一五日現在有給専従の取扱を受けていた地本常任執行委員の訴外秋田泰治、加谷軍一、高橋忠一、上野直子の四名に対しても同規則一五―三に基づく休暇の申出をするように命じ、また昭和三七年度において地本常任執行委員の地位にあつた訴外宮野賢一、本宮昭三の二名に対しては、役員改選によつてその職務を去つたのですみやかに従前の職務に復帰することを命じ、さらに昭和三八年度非常任執行委員七名に対しても、地本役員として勤務時間内に組合業務に従事しようとするときは人事院規則一五―三の申出または年次休暇の願を提出し、承認を得てから行うよう注意した。この結果同年八月三一日、前記秋田泰治外三名の地本常任執行委員から右規則一五―三による専従休暇願が提出され、いずれも承認された。

以上の事実が認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。

(二)  原告の組合歴および組合活動

(1) 原告の昭和三八年七月以前の組合歴が原告主張のとおりであることおよび原告が昭和三八年七月から昭和四二年七月まで岩手県協議長の職にあつたことについては当事者間に争いがなく、右事実と〈証拠〉によれば次の事実が認められる。

原告は、昭和二九年三月東北地建鎧畑ダム工事事務所に入所し、皆瀬ダム工事事務所を経て、昭和三五年九月から四十四田ダム工事事務所に勤務していたものであるが、入所と同時に全建労に加入し、その後

昭和三三年一二月 全建労東北地本皆瀬支部青年婦人部長

昭和三四年 六月 同右

昭和三五年 六月 同 皆瀬支部副支部長

同年 七月 同 東北地本執行委員

昭和三六年 七月 同 東北地本四十四田支部長

昭和三七年 七月 同右

同 岩手県協議会委員(教宣部長)兼任

昭和三八年 七月 同 岩手県協議会議長

昭和四二年 二月まで 同右

を歴任し、東北地本の幹部として組合業務に従事してきた。とりわけ昭和三六年七月から一一月にかけて行われた超勤手当をめぐる交渉において、原告は四十四田支部長として闘争の企画、指導にあたり、また昭和三七年三月頃に起つた南部国道事務所における労務者の首切り問題に際しては、現場労務者らによつて結成された共闘会議に全建労の代表として参加し、二週間余にわたる座り込み闘争などを指導した。そのほか原告は日常的に、四十四田支部長もしくは岩手県協議長として支部執行委員会の開催、職場集会の開催、諸会議への出席、当局との団体交渉、ニュースの発行、各支部ないし分会へのオルグなどの活動に従事した。原告はこれら組合活動を遂行するため勤務先の四十四田ダム工事事務所を離れることが多く、とりわけ昭和三七年七月県協役員を兼任するようになつてからは、岩手県協の事務局が岩手工事事務所内にあつた関係上、同事務所に赴くことが多く、翌年県協議長に就任後はその頻度は一層増大した。またこれら組合活動の大半は勤務時間内に行われたもので、本件処分の対象となつた後記認定の欠勤も、そのほとんどは原告が右のような組合業務を遂行するために職場を離れ、あるいは建設事務官としての本来の職務に従事しなかつたことが欠勤扱いとされたものであつた。

以上の事実が認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。

(2) ところで原告は、昭和三八年七月二〇日に開催された東北地本第一六回定期大会において原告は県協議長に選出されるとともに地本執行委員にも選出されたものである旨主張するが〈証拠〉によれば、県協議会は県内の地本各支部の協議体であつて、以前地区協議会と称し、その議長は各支部から選出された役員によつて互選されていたが、昭和三七年度から、この地区協議会を単なる支部の連絡機関から指導機関として充実強化する方針が打出され、その名称も県協議会と変更し、その議長は地本の定期大会において選出されることとなつたこと、さらに昭和三八年度においては県協体制をなお一層明確に確立し、その組織を強化するため、それまで県協議長が地本執行委員を兼任することになつていたが、同年七月二〇日の東北地本定期大会の役員改選の際には県協議長を県協活動に専念させるため地本執行委員を兼任させないこととなり、その方法で県協議議長と地本執行委員とを選出した結果、原告は同日の右東北地本定期大会において、岩手県協議長に立候補し、加谷軍一の後任として同議長に選出されたが、地本執行委員には選出されず、本件処分後の昭和三九年二月二九日に開催された第三七回地方委員会において補充の形で地本執行委員に選出されたものであつて、その間常任、非常任を問わず、地本執行委員の職にはなかつたものであることが認められ、〈証拠判断省略〉。

(三)  原告の欠勤に対する当局の対応

〈証拠〉を総合すれば、次の事実が認められる。

前認定のとおり岩手県協議長に選出された原告は昭和三八年七月二九日、四十四田ダム工事事務所長吉井弥七に対し、文書をもつて、県協議長(常任役員)に選出されたのでよろしくおとりはからい願いたい旨申入れを行つた。これに対し同事務所長は、東北地建に問合せて原告が地本の常任委員になつていないことを確認したうえ、同年八月一日付書面をもつて、県協議長の業務は当事務所の業務と全く関係がないので、当所としては何らの便宜も与えることはできない旨回答するととともに、原告の同年一月から七月までの勤務状況を一覧表にして原告に送り、欠勤の極めて多いことに厳重な注意を促した。また同事務所長は、同年八月二日岩手県内の各工事事務所長および監理所長に対し、原告から前記申し入れがあつたがこれを断つたので原告が組合用務のため各工事事務所に赴いたときは厳重な注意を与えられたい旨依頼した。右の依頼を受けて岩手工事事務所副所長菊地仁郎は、同年八月初めから九月にかけ組合用務のため同事務所に来ていた原告に対し、再三にわたり、早急に職場に帰り、本来の職務に専念するよう口頭で注意するとともに、その旨記載された同事務所長名義の文書を読みあげ、あるいは原告に手交して職場復帰を勧告した。また同年一〇月二一日には石渕ダム管理所長からも原告に対し同様の勧告が為された。

さらに同年八月一五日前記河野建設大臣の訓示が出されるや、同日四十四田ダム工事事務所長は原告宛、「職場に復帰し、勤務に専念せよ。」という趣旨の命令書を郵送し、その後も原告が欠勤する都度、これに対し同様の注意書を交付していた。これに対し原告は同年一〇月一七日、「昭和三八年一〇月一八日から同月二六日まで組合用務専従のため人事院規則一五―三による休暇をとりたいので御承認願います。」との事務所長宛休暇願を提出したが、同事務所長は同日所長室において原告に対し、「貴職は人事院に登録された職員団体の役員とは認められないので人事院規則一五―三による専従休暇は与えられない。」旨文書をもつて回答した。原告はその後も断続的に繰返し、ただ欠勤するときには欠勤届を提出するようになつたが、事務所長はその都度、「原告の欠勤は承認しない。今後組合用務は勤務時間外にするように重ねて注意する。」旨文書で通告し、原出のたび重る欠勤に対しては処分もあり得る旨警告を発した。結局同年一一月三〇日に至り被告は原告を懲戒免職処分にし、その旨前記四十四田ダム工事事務所長により原告に告発された。

以上の事実が認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。

2  処分理由の有無

(一)  〈証拠〉によれば、原告は東北地建四十四田ダム工事事務所用地課に勤務していた昭和三八年五月一四日から同年一一月一九日までの間、左記のとおり半日ないし一週間にわたる欠勤を継続的に繰返し、延七三日間(勤務すべき日数の約半分)、時間数にして延五一〇時間を欠勤したことが認められ右認定を覆えすに足る証拠はない。

月  日

曜日

欠勤時間数

月  日

曜日

欠勤時間数

月  日

曜日

欠勤時間数

五、一四

二五

九、 七

一五

二七

一六

三〇

一一

一七

三一

一二

一八

八、 一

一三

二〇

一〇、 二

二一

二二

一六

二三

一八

二四

一九

三一

二一

六、 五

二二

一八

一四

二三

二二

一五

二四

二四

一六

二五

七、 二

一九

二六

二〇

三一

二一

一一、 一

一三

二二

一五

二三

一七

二四

一八

二七

七、一九

三一

一九

二〇

九、 三

二四

合 計

五一〇

(二)  〈証拠〉によれば以下の事実が認められる。

原告の右欠勤に対し、東北地建四十四田ダム工事事務所長吉井弥七、同事務所用地課長吉田耕三らは再三にわたり原告に対し、欠勤ないし職場離脱をやめ職務に従事するよう命令したが、原告はこれを無視し、あるいは反抗的態度に及んで上司の職務上の命令に従わなかつた。

原告の職務命令違反の主なものは次のとおりである。

(1) 昭和三八年五月二四日午後〇時ごろ、吉田用地課長は事務所長の指示により岩手工事事務所に赴き、同所工務課において組合用務に従事していた原告に対し、長期間無断で職場を離れ、岩手工事事務所に来ていることについて注意を与えたうえ、職場に帰り仕事をするよう命令したが、原告は、「今日は忙しくて行けない。来週から行く。」などと返答して、右命令に従わなかつた。

(2) 同年八月一日午後〇時一五分ごろ、右用地課長は、組合用務のため岩手工事事務所に赴いていた原告に対し、電話をもつて四十四田ダム工事事務所に帰つて仕事をするよう命令したが、原告は、「今日はどうしても行けない。明日行く。」などと言つて、右命令に従わなかつた。

(3) 同年八月五日午前九時ごろ、同用地課長は、組合用務のため岩手工事事務所に赴いていた原告に対し、電話をもつて、同月一日命令した際、原告は明日行く旨返答しておきながら、翌二日および翌々三日の両日も欠勤したことについて注意したうえ、すぐ事務所に戻つて仕事をするよう強く命令したが、原告はこのときも、「今日は忙しく行けない。」という趣旨の答えをしただけで、右命令に従わなかつた。

(4) 同年八月六日午後一時ごろから二〇分間位、用地課長は用地課員全員に対し、職務の一部分担がえについて説明を行い、特に原告に対しては分筆の地形図を作成するよう個別に仕事を命じたが、原告は「仕事はしない。仕事をしに来たのではない。今までの県協議長だつてやつていない。」などと言つて職務に従事せず、用地課長が、「その件については所長から注意書が出ているはずだ。」と言つて再度仕事に従事するよう命令したが、原告はこれを無視して右命令に従わなかつた。

(5) 同年八月八日午後二時ごろ、前記事務所長は所長室において、用地課長および庶務課長立会いのもとに、「さきに書面でもつて貴官の勤務状態の改善につき注意を促したが、その後も上司の命令に抗し、職務を怠り無断欠勤を続けている現状は公務員として許し得ざる行為である。よつて茲に重ねて注意を喚起すると共に即刻職場に復帰し業務に従事するよう命ずる。」旨記載した文書を読みあげたうえ手交し、さらに職務に従事するよう口頭で命令したにもかかわらず、原告は、「当局と地本で話し合つて決めることだ。所長の命令に従うわけには行かない。」などと言つて右命令に従わなかつた。

以上の事実が認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。

(三)  原告は前認定の欠勤について、原告が四十四田支部長あるいは岩手県協議長として勤務時間中に組合活動を行つたものであり、それは被告も承認してきた労働慣行に基くものであつて、これを欠勤扱いとすることは許されないものであると主張する。

なるほど前記のとおり昭和三四年一月頃から昭和三八年八月頃まで東北地建では人事院規則一五―三の手続を経ない有給専従者を地本に置くことを承認し、いわゆるやみ専従の労働慣行が一時期存したことが認められるけれども、前認定の事実と〈証拠〉によれば、右有給専従の取扱を受けていたのは、人事院に登録された職員団体である全建労東北地本の常任執行委員でかつ在籍する職員に限定されていたのであつて、昭和三八年度においても、人事院規則一五―三に基づく正規の手続による無給専従者となるまでの間、有給専従者として承認されていたのは前記秋田泰治外三名の地本常任執行委員だけであつたことが認められるから、前認定のとおり昭和三七、八年当時地本の常任執行委員でも非常任の執行委員でもなかつた原告が、前記やみ専従に関する労働慣行の適用される対象ではなかつたことが明らかである。

原告は地本常任執行委員についてだけでなく、地本の各支部長および県協議長についても必要に応じいつでも勤務時間内に組合活動に従事することができ、しかも欠勤扱とされないという労働慣行が存在した旨主張する。

まず支部長について右のような慣行が存したかをみるに、〈証拠〉によれば、昭和三四年から昭和三七年頃にかけ、地本各支部においては、昼休み中開催された職場集会か勤務時間内にくい込んだにもかかわらず、管理者においてこれを黙認し、あるいは賃金カットなどの措置に出なかつたことのあつたこと、支部役員が地本あるいは中央本部の定期大会に出席するに際し、一応休暇届を提出するが、事故なく帰所した場合には出勤扱とされた例のあつたこと、勤務時間中に開催された団体交渉に出席した支部役員が欠勤扱されないことがあつたこと、などの事実が認められるが、一方〈証拠〉によつても、前同様の期間において、勤務時間中に職場集会が開催されたことに対し管理者から警告が発せられ、あるいは、右集会を主催した責任者が処分されたこともあつたことが認められるし、また〈証拠〉によれば勤務時間中組合活動に従事していた組合役員に対し管理者から注意ないし警告がなされていた事実も認められ、これらの事実に照らせば、前認定の事実からただちに地本支部長が勤務時間中自由に組合活動に従事できる慣行が存したものとはとうてい認め難く、前認定のいわゆる「一月憲法」によつてかかる慣行の存在を認め得べくもなく、ほかに原告主張の右慣行を認めるに足る証拠はない。

つぎに県協議長についてこれをみるに、原告は昭和三七年度の岩手県議長加谷軍一は勤務時間中全く自由に組合活動に従事することができた旨主張するが、〈証拠〉によれば、加谷軍一は当時東北地本の常任執行委員であつて、前記有給専従の取扱を受けていたものであることが認められるから、同人の例から県協議長一般について原告主張の慣行の存在を推認することはできないし、〈証拠判断省略〉かえつて〈証拠〉によれば東北地本新庄支部においても、組合役員の組合活動自由の問題について種々交渉は持たれていたが、支部役員ないし県協役員の勤務時間中の組合活動は一般に承認されていなかつたものであることが窺われる。

そもそも国家公務員法一〇一条一項は、「職員は法律又は命令の定める場合を除いては、その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い、政府がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない。」と規定し、原則として勤務時間内の組合活動は禁止されているのであるから、組合役員と雖も法規の定める手続によることなく勤務時間中組合活動に従事することは違法たるを免れず、管理者においてこれを黙認していたことがあつたとしても、かかる一事をつて一般に勤務時間中の組合活動が適法とされることにはならないものと言わなければならない。

(四)  してみれば、原告の前記(一)のとおり欠勤し、また前記(二)のとおり、右欠勤に対する上司の職務上の命令に従わなかつたことはそれぞれ国家公務員法一〇一条一項、同法九八条一項に違反する行為であるから、被告において同法八二条各号に基き原告を懲戒免職処分したことに処分理由不存在の違法はないと言わねばならない。

3  不当労働行為の成否

原告は本件処分は全建労を破懐するための弾圧の一環として原告を建設省から排除し、他へのみせしめとして、もぐり専従に関する労働慣行に反してなされた不当労働行為であるから違法である旨主張する。

しかしながら本件処分はなんら労働慣行に反するものではなく、また原告において職務専念義務違反、職務上の命令違反の違法行為を行つたことは前認定のとおりであるし、また〈証拠〉によれば、原告が欠勧を繰返していた昭和三八年当時四十四田ダム工事事務所においてはダム建設作業の準備期間中であつたが、原告の所属する用地課においては、用地買収あるいは物件移転に伴う登記関係、補償関係等の仕事が残つており、また仮設備関係の用地借上げあるいは工事用道路の用地借上げなどの仕事も急を要し、多忙な時期であつたこと、そして、かかる時期に欠勤を続ける原告に対し再三にわたる注意、警告が為されたが、効を奏さずやむなく本件処分に至つたものであることが認められ、右認定を覆えすに足る証拠はなく、これらの事実に照らせば、〈証拠〉によつても原告主張の不当労働行為の事実を肯定するに足りず、ほかに右事実を認めるに足る証拠はないから、原告に対する本件処分が不当労働行為に該当することを前提としてその取消を求める原告の右主張は理由がなく採用できない。

4  懲戒権の濫用

原告は、原告と訴外最上禄平ら他の欠勤者との比較上原告に対する処分が不公平である旨、そしてその他諸般の事情からすると本件懲戒免職処分は裁量権の範囲をこえ又はその濫用に当る場合であるから取消さるべきであると主張する。

そこで本件処分の対象となつた昭和三八年五月から同年一一月末までの期間について、原告と他の欠勤者の欠勤時間数を比較してみるに、〈証拠〉によれば、原告以外の県協議長の欠勤時間数は、

最上禄平(山形県協議長)二八九時間

本宮昭三(宮城県協議長) 五三時間

遠藤幸天(秋田県協議長) 六〇時間であつて、いずれも原告の五一〇時間にははるかに及ばないことが認められ、右認定を覆えずに足る証拠はない。そのほか前記認定の本件処分に至る経緯、処分理由とされた違反行為の態様、違反の程度等諸般の事情を考慮しても本件懲戒免職処分が裁量権の範囲を超え、あるいはその濫用にあたるものとはとうてい認め難く、ほかに右原告の主張事実を認めるに足る証拠はないから、懲戒権の濫用をいう原告の主張も理由がなく採用できない。

三以上のとおりであるから、被告が原告に対して為した本件懲戒免職処分は適法であつて、これに原告主張の違法はないから、その取消を求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(伊藤和男 後藤一男 小圷真史)

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